アスベストは解体時にどこまで飛散する?距離の目安と近隣の備え
「何メートル離れれば安全」という距離は、法令に定められていません。アスベスト繊維は髪の毛の数千分の一という細さで、いったん空気中に出れば風に乗って長く漂い続けるためです。 距離で身を守るのではなく、飛散させない工事が行われているかで判断することになります。
隣の家が解体されることになった、近所でビルの工事が始まった。建てられた年代を考えるとアスベストが使われているかもしれない。そう思って調べ始めた方にとって、いちばん知りたいのは「うちは大丈夫なのか」という一点でしょう。
この記事では、飛散距離について分かっていること、建材の種類による危険度の違い、法律が工事業者に求めている措置、近隣の立場で確認できること、そして発注する側が気をつけるべき点までを整理します。
アスベストは解体でどこまで飛ぶのか
法令上の「安全な距離」はない
大気汚染防止法や石綿障害予防規則を見ても、解体現場から何メートル離れていれば安全だという基準は出てきません。これは基準を定め忘れているのではなく、距離で区切ることに意味がないためです。
規制の考え方は、現場の外へ繊維を出さないというところに置かれています。隔離して、負圧を保ち、除じん装置を通してから排気する。この作業基準を守らせることで、周囲への飛散を防ぐという設計になっています。
繊維が長く漂う理由
アスベストは鉱物の繊維で、一本の太さは髪の毛の数千分の一程度しかありません。これほど細く軽い粒子は、自重で落ちるまでに非常に長い時間がかかります。
いったん空気中に舞い上がれば、風があれば流され、無風でも長時間その場に漂います。目に見えないうえ、においもありません。窓を閉めていたから大丈夫、という判断が成り立たないのはこのためです。
距離より工事の中身を見る
隣接していても、レベルの高い建材を適切に隔離して除去しているのであれば、周囲への影響は抑えられます。逆に、数十メートル離れていても、吹付け材を養生もせずにはつっているような現場であれば危険です。
つまり気にすべきは距離ではなく、どういう建材が使われていて、どういう方法で除去されているかです。次にその見分け方を説明します。
建材のレベルによって危険度が違う

| 区分 | 該当する建材 | 発じん性 | 主な工事の方法 |
|---|---|---|---|
| レベル1 | 吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール | 著しく高い | 隔離・負圧管理・除じん装置による厳重管理 |
| レベル2 | 保温材、断熱材、耐火被覆材 | 高い | 隔離または養生のうえ湿潤化して除去 |
| レベル3 | スレート板、ビニル床タイル、屋根材などの成形板 | 比較的低い | 破砕せず原形のまま取り外す |
レベル1 吹付け石綿
鉄骨造のビルや立体駐車場、工場、学校などで、鉄骨や天井裏に石綿とセメントを混ぜて吹き付けたものです。繊維がほぐれた状態で存在するため、触れるだけで飛散します。
除去にあたっては、作業場所をシートで完全に隔離し、内部の気圧を外より低く保ち、空気は除じん装置を通してから排出します。作業員は前室で身体と装備を清浄にしてから外へ出ます。工事としてはもっとも厳重な管理が求められる区分です。
レベル2 保温材・断熱材・耐火被覆材
配管の保温材、屋根用の折板裏の断熱材、鉄骨の耐火被覆などが該当します。レベル1ほどではないものの、破損すると相当量の繊維が出ます。
多くの場合、レベル1に準じた隔離か、それに近い養生を行ったうえで、湿らせながら除去します。
レベル3 成形板
スレート板、けい酸カルシウム板、ビニル床タイル、屋根材など、セメント等で固められた製品です。固形化されているため、通常の状態では繊維がほとんど飛びません。
問題になるのは工事のやり方です。重機で叩き壊せば粉じんとともに繊維が舞います。手作業で原形のまま取り外し、破砕しないことが基本になります。解体現場でトラブルになりやすいのは、実はこのレベル3の扱いです。
法律が求めている飛散防止措置
事前調査とその報告
建築時期や規模、用途を問わず、すべての建築物と工作物の解体等工事について、石綿含有建材が使われているかどうかの事前調査が義務づけられています。図面と目視で確認し、判別できない場合は分析を行います。
一定規模以上の工事については、調査結果を都道府県等と労働基準監督署へ報告しなければなりません。建築物の解体であれば解体部分の床面積の合計が八十平方メートル以上、改修であれば請負金額が百万円以上というのが対象の目安です。
また、事前調査は誰でもできるわけではなく、建築物石綿含有建材調査者などの資格を持つ者が行うこととされています。
隔離と負圧、除じん装置
レベル1と2の建材を除去する際には、作業場所の隔離が求められます。プラスチックシートで区画を密閉し、集じん・排気装置で内部を負圧に保つことで、隙間からの漏れを防ぎます。
作業員が出入りする前室を設け、そこで装備を脱いで清浄化します。除去作業中は建材を湿らせて、繊維が舞い上がりにくい状態にします。
掲示と記録
解体等工事の現場には、事前調査の結果を掲示することが義務づけられています。石綿含有建材の有無、調査を行った者、調査の方法などが記載されます。
また、調査の記録は一定期間保存しなければなりません。適切に工事を行っている業者であれば、これらの掲示が現場の見やすい位置に出ているはずです。
近隣で解体工事が始まったら
まず掲示板を確認する
現場の入口付近や仮囲いに、工事のお知らせと事前調査結果の掲示が出ています。ここを見れば、石綿含有建材があるのかないのか、あるとすればどのレベルかが分かります。
石綿含有建材が「有り」となっていて、それがレベル1や2であれば、隔離養生が行われているかを外から確認してください。シートで覆われ、出入口に前室が設けられているのが正しい姿です。
現場を見るときのポイント
建物全体が足場とシートで覆われているか。粉じんが舞っている様子はないか。重機でスレート屋根を叩き割っていないか。水をかけながら作業しているか。
こうした点は専門知識がなくても確認できます。窓を開け放したまま吹付け材をはつっているような現場であれば、明らかに手順から外れています。
疑問があればどこへ言うか
不安を感じたら、まず現場の元請業者に尋ねてください。掲示板に連絡先が書かれています。回答が得られない、あるいは説明に納得できない場合は、自治体の環境部局へ相談するのが次の手です。
大気汚染防止法にもとづく届出は自治体が受け付けており、立入検査の権限も持っています。労働者の保護に関わる部分であれば労働基準監督署が窓口になります。
相談する際は、いつどこで何を見たのかを具体的に伝えられるようにしておいてください。日付と時刻、作業の様子を撮影しておけば、行政が状況を把握しやすくなります。感情的に苦情を伝えるより、事実を淡々と示すほうが動いてもらえます。
発注する側が気をつけること
事前調査を省く業者は避ける
見積もりの段階でアスベストの話が一切出てこない業者は要注意です。建築年代にかかわらず調査は義務ですので、話題にすら上がらないのは手順を理解していないか、省くつもりでいるかのどちらかです。
調査費用は工事費とは別に発生します。見積書にその項目があるかを確認してください。分析が必要になった場合の費用についても、あらかじめ聞いておくと後の行き違いを防げます。
安さだけで選ばない
適切な隔離と除去を行えば、それなりの費用と工期がかかります。他社より極端に安い見積もりが出てきた場合、必要な手順が織り込まれていない可能性があります。
工事が終わった後に近隣から健康被害の訴えが出れば、その責任は発注者にも及びます。安く済ませたつもりが、より大きな支出を招くことになりかねません。
違反には罰則がある
事前調査を行わない、結果を報告しない、作業基準に違反する。これらには罰則が定められており、業者だけでなく発注者が責任を問われる場面もあります。
発注者には、業者が適切に作業できるよう配慮する責務が課されています。工期や費用を理由に無理を強いた結果として違反が起きれば、発注者の責任が問われます。
解体を依頼する前に確認しておくこと
建築年、構造、過去の改修履歴。これらの情報があると、事前調査がスムーズに進みます。竣工図や改修時の図面が残っていれば、業者に渡してください。増築や内装の変更を繰り返している建物ほど、図面の有無が調査の精度を左右します。
見積もりを取る際は、事前調査の費用、石綿が見つかった場合の除去費用の考え方、工期への影響を確認しておきます。調査の結果によって金額が変わるのは当然ですので、どういう場合にいくら増えるのかを事前に聞いておくと、後のトラブルを防げます。
近隣への説明をどう行うかも、着工前に決めておきたい点です。工期、作業時間、想定される騒音、そして石綿の有無と対応。これらを事前に伝えておけば、余計な不安と苦情を避けられます。
まとめ
アスベストの飛散について、法令が「安全な距離」を定めていないのは、繊維が極めて細く軽く、風に乗って長く漂うためです。距離で判断するのではなく、どの建材が使われていて、どう除去されているかを見ることになります。
建材はレベル1から3に分かれ、吹付け石綿であるレベル1がもっとも危険です。レベル1と2は隔離と負圧管理が必須で、レベル3も破砕せず原形のまま取り外すことが原則になります。事前調査は資格者が行い、一定規模以上は行政への報告と現場への掲示が義務づけられています。
近隣の立場であれば、まず掲示板で石綿の有無を確認し、養生の状況を外から見てください。疑問があれば元請業者、次いで自治体の環境部局が相談先です。発注する立場であれば、事前調査の費用が見積もりに入っているか、極端に安い金額になっていないかを確かめてから依頼してください。
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解体工事では、着工前の事前調査から近隣へのご説明まで、手順を踏んで進めることが結果的にいちばん確実です。石綿含有建材が見つかった場合の対応と費用についても、調査の結果をお示ししたうえでご説明いたします。
建物の年代が古く、何から確認すればよいか分からないという段階でも構いません。まずは現地と図面を拝見し、必要な調査と工事の見通しをお出しします。
